元本払戻金(特別分配金)は悪なのか?

2025年2月23日

巷で悪者にされがちな「元本払戻金(特別分配金)」。果てして、こいつは敵なのか味方なのか?

以前より元本払戻金(特別分配金)に対して否定的ではない私ですが、最近の分配型アクティブ投信ブームで話題になることが多く、頭の中の整理を兼ねて自分の考えを記してみました。ただ、解釈が間違えているかも知れませんので、くれぐれもご注意ください(笑)

元本払戻金(特別分配金)とは投資信託が分配金を吐き出した時、「利益」でないものについて「元本の払い戻し」という形で投資家に返すものですが、まずは「分配金」そのものについて考えてみます。

投資信託の分配金とは

勘違いされることがある投資信託(ファンド)の分配金ですが、企業の利益の一部である「配当金」や、その集合体であるETFの「分配金」とは大きく性質の異なるものです。分配金は読んで字のごとく「資産の一部を投資家に分けて配るもの」であり、その中身が利益かどうかは関係ありません。

アライアンスバーンスタイン米国成長株投信Dの交付目論見書より

分配金が支払われる様子を以下の図のようにイメージしてみます。

青が元本、黄色が利益(キャピタル+インカム)、赤枠が分配金と仮定します。

分配金を払い出す時点での利益の状況により

A. 利益>分配金なら普通分配金
B. 利益≦分配金の時に、一部利益ならば普通分配金と元本払戻金
C. 利益が全くなければすべて元本払戻金 となります。

分配金に対して利益が足りない状態(B・C)で払い出されるものが元本払戻金(特別分配金)なので、「元本を削って支払う分配金=タコ足分配」と揶揄されることがあるわけです。まあ、タコが痩せても太っても一部を切り取って配るのが分配金だから、そもそも「すべての分配金はタコ足分配」じゃないのかという気もするのですが、まあそれは置いておきましょう(笑)あ!もしかして、タコの頭の方が美味しいから利益からならタコ頭分配金にした方がいいのか?いや、でも足の方が好きな人もいるわけだし…、いや、待てよ。部位を限定する必要があるのか?それならタコ分配金でいいのでは?それとも…あ、脱線しましたw

さて、話は戻り…

ファンドからの分配金額はファンドの分配方針次第であり、元本払戻金(特別分配金)になりやすいかどうかは当然相場の状況にもよりますが、この分配方針よるところが大きいでしょう。無分配方針のファンドなら元本払戻金(特別分配金)にはなり得ないわけですし、分配率が高ければ元本払戻金(特別分配金)になる確率は高くなります。

ちなみに、これまでS&P500と同等のリターンを獲得してきており人気の高い毎月分配型投信である、アライアンスバーンスタイン米国成長株投信Dコースや、フィデリティ米国株式ファンドFコースは予想分配金提示型といって基準価額によって分配金額が決定するシステムになっています(下図)。

アライアンスバーンスタイン米国成長株投信Dコース
フィデリティ米国株式ファンドFコース

基準価額が上がる時(ファンドの運用が好調)には分配金を増やし、基準価額が下がる時(ファンドの運用が不調)には分配金を減らす、もしくは停止する仕組みです。

これにより極端に基準価額が下がることを防ぐことが可能となるため、ある程度の期間で運用が順調であれば利益の蓄積により元本払戻金(特別分配金)になる可能性は低くなっていくと考えられます。

投信の分配金はインデックスの取り崩しと一緒!?

さて、ここで次の図を見てみましょう。

上は分配型投信の分配金のイメージで、下はインデックス投信の取り崩しのイメージ。

分配型投信の分配金は利益から優先して取り崩すので取り崩しの形は横型。インデックス投信の取り崩しのでは元本+利益の形で取り崩すので取り崩しの形を縦型にしています。

どうでしょう?

取り崩しの向きは違いますが、やっていることは同じです。インデックス投資の取り崩しには必ず元本払戻金が含まれており、右列の含み益が無い状態での取り崩しならば実質的に全額が元本払戻金となります。まあ、そもそも取り崩しだと、それが元本なのか利益なのかとかあまり考えないかも知れませんが。

なぜインデックス投信の取り崩しでは「元本払戻金」が問題とならないのか?

インデックス投資の取り崩しで「大変だ!元本が返されてる!」って思う人は(たぶん)いないですよね。

インデックス投信を買ってすぐ取り崩し始める人はあまりいないのでしょうし、長期投資により成長したインデックスの取り崩しは「利益がある状態」で実施されることが前提となっているため、全額が元本払戻になる可能性は極めて低いということが理由としてあるのかなと推測します。

一方、分配型ファンドからの分配金は購入間もない時期で利益がないタイミングでの分配が十分にあり得ますから、全額が元本払戻になる可能性は比較的高くなります。

分配型投信の分配金もインデックス投資の取り崩しもやっていることは同じですが、投資初期から分配という名の取り崩しを行う分配型投信の方が「元本払戻金」が目立ちやすく、批判の対象になりやすいのかも知れません。

元本払戻金(特別分配金)の正体は…

ということで、元本払戻金(特別分配金)は悪でも何でもなく、その名の通り「元本」が返ってきただけですよ!って捉え方でいいのではないでしょうか。課税されるわけでもないですし。

前述したように、分配型投信の分配金はインデックス投信の取り崩しのようなものです。

インデックス投信の取り崩しが自分の裁量によるものであるのに対して、分配型投信はファンドのルールや裁量による「自動取り崩し」。

どちらにしても取り崩した中身の利益の割合は人それぞれで、買ったタイミングで違うし、買ったばかりなら利益が少なくても(無くても)しょうがないのです。相場次第では元本払戻金(特別分配金)が続いても不思議ではありません。

個人的には分配型投信の投資初期での元本払戻金(特別分配金)については、何ら心配するような性質のものではなく「出たら再投資しておけばいっか」くらいの気持ちでいればいいのかなぁと。「今月は調子悪かったのね」「まあそういう時もあるよね」「ワイも体調が日によって違うし」という感じで大目に見てあげましょう(笑)

リスク資産に投資しているわけですから、利益が乗るタイミングを読むことはとても難しいと思っていて、そういう意味では自分自身は元本払戻金(特別分配金)になりそうかどうか?をあまり意識はしていないのですよね。もちろん、投資タイミングを見計らって極力取得価を抑える努力(リターンを押し上げる努力)を否定するものではありません*。

*株式市場には平均回帰性という強力なアノマリーが存在し、上がり過ぎれば下がり、下がり過ぎれば上がりやすくなり、平均リターンに収束していくことが想定されます。ですから、基準価額が高く分配額が多い時は「上がり過ぎ」と判断し投資(再投資)を見送ったり抑えたり、基準価額が低い時に集中して投資(再投資)を行うことには一理ありそうです。ただ、それは機会損失とは裏腹なので、タイミングを考えずに投資した場合とタイミングを計って投資した場合、最終的にどちらの成績が良いかは神のみぞ知るといったところでしょうか。

とはいえ、元本払戻金(特別分配)がずっと続くようなファンドはダメですよね~。それは元本払戻金(特別分配)が悪いわけではなく、ファンドの運用がダメダメだということ。利益が出てないってことですからね。優良なファンドならば次第に元本払戻金(特別分配金)になる頻度は下がるはずと思います。

余談

少し話が逸れますが、「分配型投信の分配利回り」は「インデックス投信でいえば取り崩し率」なので、当たり前ですが「分配利回り=リターン」ではありません。

予想分配金提示型であれば基準価額が上がるほど分配金額が上がり、それに伴い分配利回りも上がる傾向にはあると思います。「過去1年の分配利回りが高い≒相場が好調だったのかな」とは言えるかも知れませんが、未来を予測できるものではありませんので、過去の分配利回りを元に想定したインカムの計算は成り立たないと考えた方がいいでしょう。もし、安定したインカムを狙うなら予想分配金提示型ではなく分配額が一定の投信の方が好ましいのかな。インベスコ世界厳選株式オープン(世界のベスト)は安定したインカムに向いた商品だと思います。

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